古くから神様の遣いとされて大切に保護されてきた奈良公園のシカが、紀伊半島に生息する他のシカとは異なっているという研究結果が、福島大学の教授や奈良教育大学などの研究チームから発表されました。
この結果が当事者であるシカにとって幸か不幸かということはわかりませんが、とても興味深い研究結果だということは一つの事実です。奈良公園は子どものころ一度行ったかなり遠い記憶しかありませんが、詳しく観察しに行きたいと思ってしまいました。
繁殖隔離
「20年ほどかけて奈良公園周辺や紀伊半島各地に生息するニホンジカ、およそ300頭のDNAサンプルを採取し、母親のみから受け継がれるミトコンドリアDNAを抽出するなどの2種類の方法で遺伝子の配列を分析した結果、奈良公園周辺のシカと紀伊半島のそれ以外の地域に生息するシカとは、遺伝子の配列が異なることが分かった。」というのが報告の内容です。
僕はこの分野の専門ではないので詳しいことは理解できませんが、1000年ほど繁殖隔離が保たれているとDNAに差が生じてくるのですね。いまの状態がこの先もずっと続いていけば、別の種になっていくのかもしれません。
太平洋戦争直後に79頭まで減少した個体数が、保護によって現在の1100頭まで回復したそうです。けれども特に柵で区切られているわけでもないのに遺伝的な交流が行われなかったのは不思議に思います。ニホンジカの生態的な特徴がそのような結果を助けたのかもしれませんが、ひとつの種を保護しようとする考えが1000年も継続され、目に見える結果が現れているという事実は、僕の活動の励みになりました。
神の遣い
この研究結果は、「神様の存在が信仰心を生み出す」と同時に、「信仰心が神様の存在を生み出す」ととらえることもできるのではないかと感じます。保護の形には賛否があるのだとは思いますが、人の文化と自然との関わり方、互いの存在を高め合いながら共存してきたというひとつの結果は、いかにも日本らしいと感じました。
しかも全国の農村では厄介者扱いで嫌われ、駆除の対象になっているニホンジカなのに、こうも扱いが違うのかということにも驚いてしまいます。
樹木医としていろんな植物を保護しようと考えている僕が、自然と自然信仰の神道や神社との関る機会が多くなっているのは、必然なのかもしれないと思いました。
確かに神様やその遣いという存在であれば、誰しも簡単に傷つけにくくなりますね。保護したい自然をどのように捉えるかは、自然保護活動を成功させるためのヒントのひとつになるのかもしれません。
あがらの桜をまもるんや!
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