クマノザクラの見分け方

ダウンロード ページに、「サクラの見分け方-花-」などの資料を準備しました。印刷したり、タブレットに保存してフィールドでの観察に持ち歩いてください。その他にもみなさんの役に立つ資料をまとめてありますので、ぜひご利用ください。

また、クマノザクラは個体ごとの差が大きく種としての変異の幅が非常に大きいことも大きな特徴です。一般的な特徴とは異なる個体が個体差によるものか、交雑によるものかは簡単に判断できないこともあるのが現状です。

目についた特徴だけですぐに判断するのではなく、長い期間をかけて様々な角度から観察して判断することが大切です。

花で見分ける

サクラの種類を一番簡単に判断する基準となるのは、開花の時期です。古座川町内では、山に自生しているサクラの中で、標高や気温などの条件が近い位置にある’染井吉野’よりも早く開花している花びらがピンク色のサクラは、クマノザクラであり、’染井吉野’よりも遅く開花する白いサクラはヤマザクラである可能性が高いと言えます。

花を形状でクマノザクラを識別するためには、まずサクラの花を構成する各部分の名称について理解する必要があります。

また、種ごとの特徴が表れやすい部分に着目することや、開花直後に観察を行うことも重要です。

花を構成する各部分の名称(写真はヤマザクラ)
花序(かじょ)花を構成するすべてを含んだ部分
鱗片(りんぺん)冬芽のときに芽鱗と呼ばれていたところ
花序柄(かじょへい)花柄を束ねる花序の軸の部分
苞(ほう)花柄の付け根にある葉のようなところ
花柄(かへい)花のひとつひとつにつながる柄
花床筒(かしょうとう)萼の筒のようなところ
萼片(がくへん)萼の先端付近で花弁の外側にあるところ
花弁(かべん)花びらのこと

実際に花でクマノザクラを識別するためには、花びらだけではなく、花柄などの毛の有無苞の形状などの特徴の出やすい部分に着目する必要があります。つまり普段はあまり目にしない花の裏側をよく観察してください。

花の特徴クマノザクラヤマザクラ‘染井吉野’オオシマザクラ
開花の時期早い遅い普通早い~普通
花弁の色白~ピンクピンク
苞の形倒卵形狭倒卵形倒卵形広倒卵形
花柄の毛なしなしありなし
花序柄短い(開花後に伸びる)長いほとんどない長い
花序あたりの花数1-32-43-43-4

葉で見分ける

サクラの葉の形状は、1枚ごとの差が大きいため、どの葉を選んで観察するかがとても重要になります。枝には1年の間にたくさん伸びる徒長枝(長枝)と、ほとんど伸びない短枝とがあり、観察には葉が4-5枚ついた短枝を選ぶ必要があります。

クマノザクラの徒長枝(長枝)と短枝
クマノザクラの短枝

そしてさらに短枝の中から、上から2枚目の葉を選んで観察します。

葉の各部分の名称(クマノザクラ)
葉身(ようしん)葉の面の部分
葉柄(ようへい)葉身から伸びた柄
鋸歯(しょし)葉身の縁のギザギザしているところ
蜜腺(みつせん)葉身の基部付近か葉柄にあるいぼ状の部分
表面(おもてめん)ふつう空をむいている面のこと
裏面(うらめん)ふつう地面を向いている面のこと
葉の特徴クマノザクラヤマザクラ’染井吉野’オオシマザクラ
小さい卵型やや細長い楕円円に近い楕円大きく広い楕円
裏面テカテカした緑粉っぽい白緑で脈上に毛テカテカした緑
葉柄の毛なしなしありなし
鋸歯粗く外向き細かく内向き浅く尖る糸状に細く伸びる

クマノザクラ

全体に小型で表面にうっすら毛があることが多く、裏面には毛がなくテカテカした緑色です。(白っぽい場合もあります。)

葉柄に毛はありません。鋸歯は粗目で遠くからでもギザギザが分かります。

ヤマザクラ

鋸歯はとても細かく、先端は内向きです。そのため遠くから見たときには鋸歯が無いように感じることもあります。

全体は長い楕円という印象で、表面に毛があることもあります。裏面は粉っぽい白さがあり、葉柄には毛がありません。

’染井吉野’

輪郭は丸みの強い印象のものが多く、鋸歯の先端は鋭く尖り、やや伸びています。

表面に毛はありませんが、裏面の脈上と葉柄に毛があります。

オオシマザクラ

大型で、鋸歯の先端が糸状に長く伸びやすいのが特徴です。

全体に毛がないことから、桜餅の材料として使われます。

裏面はテカテカした緑です。

冬に見分ける

花や葉などの観察できる材料のない冬の時期でも、ある程度サクラを識別することが可能です。冬芽や樹形についてよく観察してみてください。

ただし、他の時期に比べると情報量が少ないことは事実です。すぐに断定するのではなく、花や葉の時期を待って何度も観察することが大切です。

ヤマザクラの冬芽

冬芽をよく観察すると、タケノコのようにうろこ状の皮に覆われた状態になっています。この一枚一枚は芽鱗(がりん)と呼ばれており、冬の寒さなどから目を守っていると考えられています。

冬芽の大きさや形状芽鱗の開き具合や毛の有無によって、それぞれの種類を見分けることが可能です。

冬の特徴クマノザクラヤマザクラ’染井吉野’オオシマザクラ
樹形の印象株立ちが多く繊細一本の幹が高く伸びる一本の幹で広がる横に広がる
冬芽の大きさ小さい小さい大きい大きい
冬芽の印象つるっとしているガサガサしているうっすら毛があるつるっとしている
芽鱗の向き閉じる外向きに開く閉じる閉じるかやや開く
幹肌繊細で美しい繊細で美しいゴツゴツしているやや粗い

クマノザクラの冬芽

小さく、芽鱗がきれいに閉じている。

全体的にテカテカしてつるっとした印象です。

ヤマザクラの冬芽

小さく、芽鱗が外向きに開いているため、ギザギザした輪郭に感じます。

’染井吉野’の冬芽

やや大きく、芽鱗の表面にうっすらと毛があります。

ヤマザクラやクマノザクラと比べるとぽっちゃりしています。

オオシマザクラの冬芽

大きく、芽鱗に毛はありません。

外向きに少し開く場合もあり、全体にどっしりした印象です。

’染井吉野’やオオシマザクラは、樹木の比較的低い位置から横方向に張り出してくることが多く、幹が太くなると樹皮は粗めで全体的に乱れた樹形になりやすいという特徴があります。

クマノザクラとヤマザクラはの幹は、太くなっても緻密で美しいことが共通していますが、ヤマザクラが一本の幹で太くまっすぐ伸びるのが多いのに対して、クマノザクラは根元付近から複数の幹が伸びている株立ちや枝垂れるものも多く繊細な枝ぶりが美しいことが特徴です。


実際に古座川町でサクラをたくさん観察していると、4種類以外のサクラも目にする機会があります。’河津桜’、エドヒガン、カラミザクラ、サトザクラなどが存在しています。

そして忘れてはいけないのが雑種の存在です。雑種を見分けるのは、とても難しいことです。

サクラを増やしたり植えようと思っている方は、殖やすことよりもまずサクラの種と見分け方について深く理解する必要があります。そして交雑による影響についても理解しなくてはいけません。

あがらの桜をまもるんや!

【あがらの桜をまもるんや!】クマノザクラの桜守

クマノザクラとクマノビト 書籍販売

クマノザクラとクマノビト
国内では約100年ぶりに新種のサクラとして報告されたクマノザクラ。しかしその存在は、古座川町の人々にとってはごく身近なものでした。本書では誰にでもわかりやすい簡潔な文章と、美しい写真で、クマノザクラとクマノビトとの関係を紹介しています。古座...

クマノザクラとクマノビトを購入していただけると、それが樹木医甚兵衛の活動資金となります。

Amazonもしくは お問い合わせ ページから直接ご注文ください。

タイトルとURLをコピーしました