クマノザクラ(Cerasus Kumanoensis)は、約100年ぶりに報告された新種のサクラです。
新種と言うと、いままで誰も見たことのない生物だろうと想像する人が多いのですが、クマノザクラは以前からずっと紀南地域の人々から愛されてきたサクラでした。
地元の人に存在が周知されていたにもかかわらず、学会などの正式な場で学名が報告されていなかったサクラなのです。
「あがらの桜は二度咲く」
これはクマノザクラの調査が始まる前に地域の人から聞かされた言葉でした。
クマノザクラには、まだわかっていないことがたくさんあります。
いまのところ、専門家であってもこの地域のサクラを正確に識別できる人はいないと僕は考えています。個体ごとの変異の幅が大きいことと、他のサクラとの交雑が起こることがとても多く、クマノザクラの定義そのものができていないことが要因です。これには時間をかけて形態的特徴の観察を続けていくと同時に、遺伝子解析などの結果を紐づけていく作業が必要になります。
健全な活用のためにはまずこれらの事実を解明し、公開していくことが必要です。それがなされないままに経済利用しようとする動きが独り歩きしていく現状には、強い違和感を覚えます。
「どうしていままでクマノザクラが報告されなかったのか?」と聞かれることがよくありますが、最近は大きくふたつの答えを紹介しています。
ひとつは、現代において植物分類学という学術分野が非常に閉鎖的であるということです。情報を公開せず、利益を共有しようとしない姿勢が美しいサクラの存在を見えにくくしていました。
そしてもうひとつは、ヒトとサクラとの関係性を見直す機会をこの世の中に与えるためだということです。自らの利益や快楽のために自然を破壊し、都合の悪いことから目を背け続ける現代に対して一石を投じ、反省を促すためにいま「この時」を待っていたのだと。
僕はそのように考えています。
外来のサクラ
古座川流域にはもともとクマノザクラとヤマザクラの2種が自生していたものと考えています。それに加え、人の手によって’染井吉野’、オオシマザクラ、’河津桜’、エドヒガン、カスミザクラ、オオヤマザクラやその他の栽培品種が植栽されました。
これらの種は、それぞれ識別することが可能ですが、交雑によって生まれた雑種と考えられる個体も存在しています。この雑種を識別することは極めて難しく、その特徴を注意深く観察する必要があります。
人為的に植栽されたサクラの中で、主に薪炭材を得る目的で沿岸部の森林に導入された伊豆半島原産のオオシマザクラは、繁殖力が極めて高く、強健であることが知られています。
エネルギー転換によって伐出されることがなくなったオオシマザクラは、いたるところで野生化がすすみ、次第に内陸部へと拡大しながら徐々にクマノザクラの競合種となって自生地を奪っているように見えます。
また、クマノザクラと人為的に植栽されたサクラとの間で交雑が生じていることも確認されています。紀南地方のようにヒトと山との距離がとても近い地域においては、植栽する樹種を選ぶにあたって自然環境に対して配慮することが必要とされます。
クマノザクラの近隣に地域外からサクラが持ち込まれると、自然界で長い時間をかけて保たれてきた生殖的隔離が失われ、遺伝的撹乱が引き起こされたり、繁殖干渉が生じたりします。それによって自生種であるクマノザクラやヤマザクラの数が減少していくことが懸念されています。
サクラの種類
もともと日本国内に自生するサクラは、
ヤマザクラ
カスミザクラ
オオシマザクラ
オオヤマザクラ
エドヒガン
チョウジザクラ
マメザクラ
タカネザクラ
ミヤマザクラ
の9種であると考えられてきました。(カンヒザクラを含めた10種という意見もあります。)ここへ新たに、クマノザクラが加わり、10種(11種)となることになりました。
これらをもとに人が関わって生まれた栽培品種などを含めると、約400種になると言われています。
クマノザクラを植えたい人に
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サクラの見分け方
古座川のサクラ
クマノザクラの現状
あがらの桜をまもるんや!
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