【樹木医甚兵衛はこうして生まれた】

クマノザクラ

今回は樹木医甚兵衛が「紀南地域の自然保護について取り組もう!」と思ったきっかけについてお話ししようと思います。

この地域でクマノザクラ調査や研究を本格的に始めたのは、古座川町に移住してからすぐの2016年のことでした。

毎日ひとりで山に分け入っては、美しいサクラの調査を続けていました。そんな生活の中で、クマノザクラが減少していくという現実を目の当たりにしながら、植物が好きで樹木医にまでなった僕は、ごく自然にこれを守っていきたいという気持ちが芽生えました。そしてそれと同時にクマノザクラ以外の紀南の美しい生物たちに魅了されていきました。

もともと横浜の都市部で造園業を営んでいたせいか、いつしか心の中で、「紀南に自生する植物だけでを作ってみたい!」そんな気持ちが大きくなっていきました。

「こんなにも美しい植物があるのだから、クマノザクラだけではもったいない。春以外の季節も楽しめる花を集めよう。サクラの次はアジサイだ!」そんな軽い気持ちで自生のヤマアジサイについての調査を始めました。

「ただ闇雲に広い山の中を歩くのはあまりにも効率が悪い。まずは聞き取り調査から始めよう。」僕は古くからこの地域で暮らしている方々にお話を伺いに行きました。すると誰しもがこんな言葉を口にするのです。「そういえば見いひんなあ。あがらが子どものころはいくらでもあったのに・・・。」

結局、聞き取りではほとんど手がかりが得られず、その後何年もの間調査を続けて見つけたヤマアジサイは、たったの5株です。広い古座川の河口から源流域まで、人伝を頼りに、地道に歩き続けてようやく5株。しかも見つけた個体はいずれも崖の途中で窮屈そうにしていました。

僕は愕然としました。

危機にあるのはクマノザクラだけではないんだ・・・。」

サクラやアジサイなどの知名度の高い植物たちが、特定の地域の中で絶滅の危機に瀕している。そして地域の人々はそのことに気づきもしていない。そのとき、僕はふと思いました。

「名も知られず、存在も知られず、誰にも気づかれないまま失われていく生物があるはずだ。これまでも、そしてこれからも。」

そうです。ふつうの人々が認識している生物など、ほんの一握りに過ぎないのです。何気なく暮らす今この瞬間にもこの地域から消えている生物があるのだと、僕は気づいてしまったのです。

「そのことを多くの人に伝えなければ。今すぐに行動を始めなければ!」

そうして設立したのが一般社団法人樹木医甚兵衛です。

世界には、大きな代償を払って自然を保護しようと固く決意した人がいるのだと思います。おそらくそれぞれが決死の想いで開発利便性資本主義と戦っていることだと思います。そんな人たちはきっと例外なく自分にとって身近な自然を失い、大きな喪失感を味わった経験があるはずです。「幼いころ過ごした野山が伐り拓かれてしまった。」「家族で出かけたあの場所はもう失われた。」

自然とは、唯一無二のかけがえのない存在です。ひとつとして同じ生命などあり得ません。その存在は、あなたにとっての大切な人と同じものなのです。

この問題は、どこか遠い国で起こっている争いごとではありません。名前も知らない誰かが流す涙ではありません。

あなたの大切な誰かが、この世から失われるということと同じ意味を持つのです。

僕自身、この古座川町という紀南の僻地に移住することがなければ気づきもしなかった問題です。絶滅していく生物がある。そんなことは当然、頭の中では理解していました。樹木医として専門的な勉強もしていました。そして分かったつもりになっていたのです。

しかし何か具体的な行動を起こしたことは一度もありませんでした。

そしてそれは、大きな大きな過ちでした。

僕は気づいてしまったのです。すぐ近くでそれは起こっていたのです。種の絶滅が起きているのは、どこか遠い途上国の話などではありません。ましてやテレビで目にするような、ニホンオオカミやトキなど、限られた種の話ではないのです。

実は、見えないふりをしていただけなのかもしれない。都合の悪いことから目を逸らしていただけなのかもしれない。

僕たちの活動を通して、そんな気付きをしてくれる人がひとりでもいるのなら・・・。

植物を守るためには、単純にひとつの種を増殖すれば良いということではありません。多様な種を残していくためには、そこに含まれる多様な遺伝子を残すということであり、それを取り巻く多様な生態系を残すということが重要になります。

そのためには大きな大きな力が必要になります。そしていまの僕たちには、そのための力が充分に足りていないことを知っています。

僕たちの活動はまだまだ始まったばかりです。できることをひとつひとつ。効率成果を求め過ぎて焦ってはいけないと考えています。それは正しいと思える道を踏み外さないために。

紀南の僻地に暮らす樹木医として、僕がやるべきことを。僕にしかできないことを。

そんな僕が想いを込めて作ったフォトブックがこちらです。

コメント

  1. 田村 紀子 より:

    頑張って下さいね、再度こちらにアクセスする方法が、難しいです。すみません😣💦⤵️

    • 甚兵衛 より:

      どうもありがとうございます。
      僕も最近始めたばかりなので、なかなか使いこなせていません。
      とりあえずブログをフォローしてもらうと良いのかもしれません。

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